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データサイエンスで社会課題を解決しよう:フードロス編

1. はじめに

NRIデジタルのデータサイエンティストはAIや機械学習、データ分析に従事するだけではありません。前回のファッション編に続き、NRIデジタルのパ―パス「まだ見ぬ世界を切り拓こう。」を体現するべく、新たな価値創造を目指し、社会課題を起点としてソリューションを考えたアイデアソンの取り組みを紹介します。今回はフードロス編です。


2. 課題とソリューションの検討

  • フード関連の課題
    "食品ロス"という言葉は1998年頃に登場し、2001年には農林水産省が食品ロスに関する統計調査を始めました。それから20年以上たった今でも、日本国内では年間523万トンの食品ロスが発生しています。これは、国民一人がおにぎり一個を毎日捨てていることに等しい量です。我々はこの大きな問題に対し、フードサプライチェーンの各段階における訴求ポイントを探ることを大枠として議論を進めました。

  • 話し合いの中で大事にしたこと
    議論で大切にしたことは以下の2つです。

    ① 当事者意識を持ち、想像を膨らませる
    ② 迷っても素早く判断する

    それぞれ簡単に説明します。

    ① ここが今回最も難しかったポイントでもあります。消費や小売など、普段接している範疇で食品ロスを議論することは容易でした。しかし、生産や製造、配送等の領域では非常に難しい議論となりました。各自で持ち寄った調査内容と照らし合わせ、全員の納得感を醸成しながら進めることで意義のある議論ができたように感じます。
    ② 限られた時間の中で最良の成果物を生むために不可欠だったように思います。各アイデアに対するスコアリングを行う際には迷った時も素早く判断することを心がけました。一人が発言して残りの2名がレビューするという形で迅速かつ的確に成果物まで辿り着けたように感じます。

  • 成果物サマリ
    統計情報を確認すると、依然として大量の食品ロスが発生していることがわかりました。また、第一次産業におけるデータは存在しておらず、隠れ食品ロスもあるのではないかという仮説を立てました。

図1. 食品ロス量の推移
(出所:農林水産省「食品ロス量の推移(平成24~令和3年度)」 )

フードサプライチェーンの各段階における食品廃棄の状況を確認し、その規模がサプライチェーンの川上に集中していることがわかりました。したがって、今回は食品の「生産段階」「製造段階」の二つをターゲットに解決策を検討しました。

生産過程における食品ロスの原因は、育成環境による農作物規格や需給バランスの変動が挙げられます。我々の議論ではこれらの解決に向けて、作物の状況や需給状況をリアルタイムに考慮した上での新たな商流開拓を支援するソリューションが求められていると結論付けました。
※ 実装方法例:レコメンドアルゴリズム搭載のECアプリケーション

図2 生産段階における廃棄要因と解決策

製造過程における食品ロスの原因は、製造工程による廃棄や需給バランスや市場トレンドの変化による廃棄が挙げられます。我々の議論ではこれらの解決に向けて、本来廃棄されている可食材料を活用し、市場トレンドに根差した新商品開発を支援するソリューションが求められていると結論付けました。
※ 実装方法例:生成AI搭載のインハウス業務用アプリケーション

図3. 製造段階における廃棄要因と解決策

今回は「生産過程」「製造過程」をターゲットとし、それぞれ食品ロス削減に向けたソリューションの方向性を検討しました。実装方法については、各伴走支援先の個別に抱える課題感や目指したい方向性によって柔軟に対応すべきであると考えています。

  • 今後の予定
    今回は"食品ロス"という非常に大きな社会課題から"サプライチェーンの川上をターゲットにした施策"を最終的な成果物としました。しかしながら、限られた時間の中で集中議論して生まれた"アイデア"であり、現状は「社会課題を解決する」かつ「NRIデジタルとして推進すべきビジネスである」の二つを満たすものではありません。これを真に意義のあるソリューションに昇華させるためには「当事者への課題感の確認」と「フィジビリティも含めた技術的な議論」が不可欠だと思います。今後は、これらの活動を通じて"アイデア"を"価値あるソリューション"に昇華していきます。


3. 参加者の声

社会課題という大きなテーマを掘り下げ、一つのソリューションに落とし込むことの難しさを体験できました。とりわけ、NRIデジタルとして推進すべき事業性の伴う、顧客企業との「価値共創」を行うには、伴走支援対象となる企業のビジネスモデルや業務オペレーション、業務課題を深奥に理解することが不可欠であると感じました。このワークを通じて得られた感覚を本業務でもしっかりと活かしていきたいと思います。

課題に対してより良い解決策を見つけるためには、課題の背景や要因、周辺環境など様々な情報をインプットし、整理する必要があることを感じました。実際の業務では、目の前のデータとにらめっこしているうちに本来実現したい目標やその背景を見失いそうになることもあるため、今回のワークで感じたことを思い出し、本当に価値のある分析やモデル構築をしていければと思います。

自身で取り組むことが少なかった「社会課題を考えた上でビジネスゴールを明確にして仕事を生み出す活動」を経験することができて学びの多い活動でした。特に昨今では、AIの民主化(AIを誰もが使えるようにするという概念)ならぬ「データサイエンスの民主化」が進んでおり、分析手法をどのように使うかや、本当に価値のあるアウトプットに繋げられるかが今まで以上に重要になると考えています。今後の業務では、手を動かすエンジニアとしての業務遂行に加えて、ビジネス視点で自身の考えを持つようにすることで、より重要性が増すであろうビジネス力を養っていければと考えています。


執筆者

河合 直浩(かわい なおひろ)
電気機器メーカーで画像処理やデータ活用に関する商品開発、R&D、技術営業などに約13年半携わった後、株式会社野村総合研究所(NRI)に入社。入社後すぐNRIデジタル株式会社に出向し、小売り向け需要予測システム開発に開発マネージャーとして従事。現在はデータサイエンスファンクションでリードデータサイエンティストとして30名強のチームのマネジメントを担う。