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【おすすめ本③】古川一郎・守口剛・阿部誠「マーケティング・サイエンス入門」

NRIデジタルのビジネスデザイナー大和です。私は、普段さまざまな業界の企業に対し、データ活用に関する戦略立案や、データ分析・実行の支援をしています。
顧客の状況は、「データをどのように貯めればよいのか」といういわゆるデータ活用の”入口”の段階だったり、「データはいっぱいあるけれども、どのように活用すればよいのかわからない」といった段階であったりなど、さまざまです。そういった企業の状況に合わせて、次の段階に行けるように支援できればと思いながら、日々業務に取り組んでいます。
(執筆:NRIデジタル 大和 大祐)

マーケティング・サイエンスの薦め

今回紹介する書籍は、古川一郎・守口剛・阿部誠/著『マーケティング・サイエンス入門 -- 市場対応の科学的マネジメント 新版』(有斐閣、2011年)です。この本を読んだ2013年当時は、データサイエンスという言葉が少し認知され始めた時期でした。このとき私自身は、前年まで物理の研究のためにアメリカのフェルミ研究所に博士課程として在籍しており、研究者に囲まれた生活からビジネスの世界にいきなり飛び込んだ状態でした。当時はデータに基づいた意思決定ができない企業も多く、そんな企業のマーケティング担当者の勘と経験による運用方法をどのように改善すればよいのか、またどのようにして彼らに説明すればよいのか悩んでいた時期でもありました。

この本では、マーケティング・サイエンスというものは、"マーケティングに関するマネジリアルな意思決定の発想を豊かにすると同時にその精度を上げるために、客観的なデータと論理に基づいて市場を捉えるための基本的な考え方や具体的な方法を探求するもの"とされています。
このマーケティング・サイエンスをベースにすることで、

①マーケティング担当者、データ分析者など関係者間での共通言語が構築することができお互いに認識齟齬が少なくなる

②データ、論理に基づいた意思決定を繰り返すことにより、成功と失敗の経験を次の施策に活かすときに格段に意思決定の精度を向上させることができる

などのメリットがあります。

過去に担当した案件として、顧客から「広告と売上の関係を明らかにして、広告予算の最適化をしたい」というものがありました。当時駆け出しだった私は、広告のことなどわかっていなかったので、データだけ眺めて、売上をより説明できるような定式化を考えていました。しかし、自分ではいいモデルを作っていると考えていた中で、顧客への説明時に「売上に対する広告効果のイメージが違う」といったコメントをもらい、次にどうすればよいかわからない状態に陥ってしまっていました。
そんなときにこの本を開いたところ、広告効果をモデル化する際に考慮すべき要因には、広告の残存効果(例えば1週間前に放映された広告が、現在にも効果が少し残っている)や、ある程度広告量を出さないと反応しない場合がある、など広告効果に関する背景情報の説明がありました。これを取り入れて、おそらく顧客がなんとなく感じていた足りない部分を定式化することで、顧客と広告効果の概念をすり合わせ、円滑にプロジェクトを進めることができました。

この本は入門と書かれているように、上記の他にもマーケティング・サイエンスの概要が広く紹介されています。先ほどの広告効果分析や、マーケティング戦略を立案するための分析、製品デザイン、価格戦略など各章ごとに説明されています。いずれもマーケティング担当者にとっては馴染みがある分野なのではないでしょうか。
これらの項目について理論的に整理されているため、ご自身の理解を深めることや、多人数でマーケティングを共同する場合の共通言語を作ることに活用すれば、プロジェクトを円滑に進められるようになるかもしれません。

顧客のことを考え続け、変化を楽しむ姿勢

現代は、ウェブサイトのアクセスログに代表されるように、企業が保有するデータ量が膨大となっていることがほとんどで、なんとなくデータを眺めているだけでは何の示唆も得ることができません。
そのような場合においても、顧客に関する一般的な行動理論があるとデータを見るときの一つの羅針盤となり、見通しがよくなったり新たな施策につながったりします。
もちろん、完璧な理論など存在しないと思っています。しかし、この本は出版されてから10年以上経ちますが、書かれている理論は市場の変化・顧客行動の変化の中にあっても色褪せることはないと実感しています。変化する市場においても、顧客の行動は起こり続けますし、その行動した結果がデータとして蓄積されていれば、新たな市場において最適なマーケティングアプローチが可能になるかもしれません。
変化する時代において、データやそれを用いた分析結果をもとにした精度の高い意思決定をするためには、常に顧客のことを考え、変化を楽しむことができるようなスタンスが重要であると私は考えています。